VIRTUAL IHARA + WinningEleven

ヴァーチャルイハラ / イハラクラブ+ウイニングイレブン

第8話:幕開け

┃ 第1シーズン(2010-2011)/ 8月 / 所属:デ フラーフスハプ(オランダ)

監督とコーチのしょうもなさには呆れたけれど、確かに翌日から開幕メンバーに残った者と漏れた者とで練習メニューが変わった。

予告通り、僕は練習試合にベンチ入りもしなかった。

  

まだ実感が湧かないけど、悪い気持ちじゃないなー。

スハプに加入して以来、何かを保証されたことなんてない緊張状態にずっとあったから、少しフワフワしてしまう。

でも、テレビで夜のニュースを見てたら一気に醒めた。

  

今日はオランダのエールディビジより一週早く、イタリアのセリエAとスペインのリーガエスパニョーラ、そしてイングランドプレミアリーグが開幕する。

そのトップニュースでヒロナリが、スターが集う銀河系軍団レアルの開幕スタメンを勝ち取ったことが報じられたのだ!!

  

す、す、すげー! さすがは庵原が誇る最強エースストライカー!

クリスティアーノ ロナウドやカカーと、同じピッチに立って渡りあってるのかー!?

残念ながらゴールはなかったけど、見事チームの勝利に貢献とのこと。

  

続くは、何ー!!ケイジもミランで開幕スタメン??

どうなってんだ、こりゃ!夢なのかい?夢なのですかい?

すると、ちょうどそこで携帯が鳴った。ケイジからだった。

『おお!ケッちゃん、ちょうど見てたよ!』

「まあね。どうも。」

『イタリアはどう?セリエAの感じは??てゆうか、ミランてどうなのよ?』

「そうだなー、まずはミランラボすげーよ!バカだりぃ時でも、ラボの低酸素カプセル入ったら一発だし、とにかく科学的で効率いいね。まあ、練習メニューとかはあんま言うなって言われてんでアレだけど、量とかも超管理されてるから庵原高とは流石に違うね(笑。」

『世界のミランと日本の一高校サッカー部を一緒にしちゃマズイでしょー(笑!』

「ヒロナリとは、話した?」

『ううん、まだ。』

「オレは君と電話する前に話してたんだー。バカ悔しがってたよ。試合に出るだけじゃ、ね。特に攻めの人はゴールしてナンボだから。」

『さすがだ!』

「うん、さすがだ!オレは組織的に守って”0”に抑えれば御の字だけど。君も攻めの方の人間だから、まあがんばって!」

『ありがとう!うちは来週開幕だから。一応開幕メンバーには残ったし、チャンスあればガンガンいくよ!』

「おお!その意気だ!要は気合いだよ!ちなみに、クボシンも無事イタリアのナポリに受かってて、今日出てたよ!」

あらら‥‥、ケッちゃんと夢中で話してて、テレビではクボシンのことも やっていたのを見逃してしまったらしい。

『マジで庵原高は優秀だ!』

「その通り!じゃ君も庵原の名を汚さぬよう頼むよ!」

『了解~!じゃ、またね!!』

  

なんだか武者震いがしてきたぜ!

みんなあの卒業式の、日本代表での再会の約束(第1話参照)を胸にがんばってるんだな!

僕も負けられない!!

  

スポーツニュースも終わる直前、ギリギリ間に合ったプレミアの開幕速報が入って来た!

口頭のみの紹介だったけれど、アキヨシが名門マンチェスター ユナイテッドでスタメンデビューを飾った、と!!

な、な、何ですとー!

あれ、でもアイツ、スペインに行くって言ってなかったっけ?

第7話:バースの苦笑い

┃ 第1シーズン(2010-2011)/ 8月 / 所属:デ フラーフスハプ(オランダ)

今シーズン開幕前の最後のテストマッチ(練習試合)前日。

僕はコーチと、いつものように居残り練習に入っていた。

プロとしてやっていくための底上げもそうだし、それとは別にスハプ独自の戦術もある (ちなみにうちはチーム名が長いので、僕は「スハプ」と勝手に略してます)。

まだまだ覚えなくちゃいけないことはいっぱいなのだ!

  

こないだのメールの一件もあったけど、正直僕はまだ自分が開幕一軍の当落線上にかすってるかすらも自信がないから、練習にも自然と熱が入る!

  

しかし、この日はちょっと違った。

いつもなら練習の1/3が終わったくらいで、 コーチが「今日はこれで終わりにしよう」と言い出したのだ。

『まだ体は全然動きますよ!』

と驚きを隠せない僕に、とりあえず今日はもう終わりにするからシャワーを浴びて帰りに監督室に寄ってくように、とのこと。

  

ん? まさか‥‥何か嫌な予感がするな。

言うなれど、僕も外国人枠を使って在籍してるんだからなー。日本のプロ野球なら、バースを求められてるわけで。

まだちょっと、、流石にバースにはなれてないもんなー。

 

でも練習は現に終わりなわけだし、このままグラウンドにいても始まらない。

考えるのをやめて後片付けをし、クラブハウスに引き上げた。

  

コンコン!監督室のドアをノックする。

『ヨシヒコです。失礼します!』

「オオ!入レ!」 

部屋に入ると、監督が既に帰り支度を整えて僕を待っていた。

『コーチが監督室に寄っていけと‥‥』

「オー!ソウナンダ!イキナリダガ、良イ話ト悪イ話ガ アル。ドッチカラ聞クカ?」

『えっ!?』

事態が全く読み込めないから、頭も全く働かない。

つい勢いだけで、じゃ悪い話の方からで、と答えてしまった。

「ヨシ!デハ言ウゾ。明日ノYOUノ出番ハナイ。ベンチニモ 入レナイ。」

『!!!』

え?何?なんでいきなり?

明日出れなかったら、開幕一軍なんてありえないじゃん!

こないだ点も獲ったし、とりあえず明日のチャンスを奪われる筋合いはないぜ。

は!これがモノホンのプロの厳しさってことなのかい?

いやいや、プロだからこそ結果だろ!

なんだかムカついてきたぞ!と思ったのと同時に口が開いてしまった!

『俺が、俺がバースじゃないからか!?』

「ハ?オ、オイ!落チ着ケ!」

『これが落ち着けますかっての!俺が金髪じゃないからか!俺が口髭を生やしてないからか!俺がカーネルおじさんに似てないからか!俺が‥‥』

まくしたてる僕に、監督は苦笑いするしかない。

「ダカラ、マズ バースッテ何ダ?トニカク落チ着ケ!ソシテ、コノ後ノ良イ話ノ方ヲ聞ケ!」

確かに言われてみれば、一理ある。

とりあえずバースの例えを出したところで、欧州人はピンと来るまい。

その点は些か唐突すぎたかと思い喋るのをやめたが、どうせ間接的な肩たたきさ。

帰りの旅費は出すとか、せいぜいそんなとこじゃないのかいな。

僕からの疑いの視線に晒されたまま、監督が切り出す。

「ヤット静カニ ナッタカ。デハ、言ウゾ! YOUハ 今シーズンノ 開幕メンバーダ。明日怪我デモ サレタラ困ルシナ。コンディションヲ整エテ モラウタメニモ、居残リモ含メタ明日カラノ練習量ハ コチラデ調整スル。」

は?

え?

ん?

開幕メンバー?

明日は出れなくて、それはなんでかってと怪我とかマズイから、それはなんでかってと‥‥開幕‥‥めんばあ?

『か い ま く め ん ば あ ?』

自分を指差しゆっくりと確認する僕に、監督は大きく頷き大声で笑い出した。

それを合図にしたのか、ドアが開きコーチがニヤニヤ顔で入って来た。

「ホラネ、ダカラ言ッタデショ。」

「ムムー!悔シイガ君ノ勝チダ!!」

まだ某然と立ち尽くす僕に、コーチが言う。

「イヤー、何ネ。頭ノ スマートナ日本人ナラ、コンナ時 ドンナ リアクションヲ スルカ、2人デ賭ケテ ミタンダ!監督ハ悔シ泣キ シナガラモ耐エル方ニ。オレハ YOUが怒リ狂ウ方ニ。負ケタ方ガ開幕戦ノ日ノ ディナーヲ奢ル ト。監督、必ズ試合ニモ勝ッテ、最高級ノ ディナート美酒ニ 酔ワセテイタダキ マスヨ!モチロン、YOUモ連レテッテ ヤルカラナ。」

「ヨシヒコ、スマンナ!ジャパンデ言ウ ドッキリ ッテ奴ダ。タダ…YOUハ本当ニ涙ハ出テ イナイノカ?」

そう未練がましそうに顔を覗き込もうとする監督に 『お先に失礼します!(いいかげんにせい!と心の声)』 と答え、僕は監督室を出て行こうと歩き出した。

ドアノブを捻ったくらいに、後ろから

「デ、バース ッテ一体何ダァ?」

と聞こえたけど、聞こえぬふりしてそのまま監督室を後にした。